vol.76 2005年 1月23日  『ゆったり暮らせば』 第48回

産経新聞 平成16年(2004年)3月11日 木曜日 12版 20頁
ゆったり暮らせば 第48回
〜いい加減〜
”地獄”を見て到達した境地


 今年の朝霧は、例年になく暖かい日々が続きました。マイナス十数度もありましたが、雪は積もらないし、凍結もほどほどで(といってもホースの中が凍り、洗濯機が使えるのは午後になってから)、暮らすのはとても楽ちんでした。ある年から毎年真冬に咲くフジザクラを見かけ、温暖化を肌で感じることもありますが、今年は牧草地を駆け抜ける鹿の姿が目につきました。と書くと「害獣だから捕まえよう」と思われそうですが、それは絶対にイヤ。泣いちゃう。

 とにかく朝の光の中で鹿の親子の動きは美しく、見ているだけで心洗われます。タンザニアの平原で象やサイに出合ったときのような存在感があり、なぜか九年前ここに住んだときから鹿を見ると、「それでよし」というメッセージに聞こえました。そう、何かに悩んでいてやっと解決できそうな時にいつも出現するからです。

 最近出会ったときは、「うん、こだわらない自然体もいいね」という感じがしました。実はスローライフを送っているうちに、私もどんどん変わってきました。ビンビンのベジタリアンにもなっていたときもあるけれど、最近乗馬を始めたら、なんだか「肉が欲しい〜!!」という自分がいてビックリ。馬のパワーと対等になるには、今の自分ではなんだか不足な気がしたのでしょう。そしておいしく食べられたので、二度びっくり。私をよく知るまわりの人は、「本当に同じ人? ダミーじゃないの」とさらにびっくりするようです。生き方がベジタリアン(健康で生き生きとして力強い人というラテン語の語源)というのは変わっていないのですが。

 よいあんばいという意味での「いい加減」が口癖の私ですが、四十六歳になった昨年末ごろから、それがやっとうまく身についてきたような気がします。一日二時間睡眠で向かっていたパソコンはほどほどになり、仕事とプライベートの時間配分もいい感じ。「忙しい」「疲れた」という言葉は完全に廃止してしまいました。いつも新鮮な気持ちでそれに向かえば、なんて物事がうまく回っていくことか! なかなか会えなかった友人たちにもじゃんじゃん会えるし、散歩の時間もある。もしかしたら、今がいちばん時間を有効に使っているときなのかもしれません。

 さて、どうしてそんな悟り(?)があったのかというと、実に簡単で、私なりに地獄を見たからでした。昨年の夏から計画していた自宅兼事務所のログハウス建設に関するモロモロが、私の固定概念を取っ払い、さらに柔軟で強い私を作ってくれたのです。”艱難汝(かんなんなんじ)を玉にす”とは言ったもの。この朝霧で生まれて初めて経験する家造りは、何よりの贈り物を与えて下さいました。それは・・・。

自宅近くの乗馬クラブで、富士の裾野へ長距離トレッキング=平成16年1月静岡県富士宮市

 
【Top Page】

Copyright 2001 Fairy Tale, Inc. All rights reserved.