vol.62 2004年 11月16日  『ゆったり暮らせば』 第34回

産経新聞 平成15年(2003年)11月27日 木曜日 13版 18頁
ゆったり暮らせば 第34回
〜アイガモの”母”〜
ヒナたちを独り立ちまで保育


 昔から私は、動物を飼うのが至上の喜びでした。ヒヨコ、タナゴ、オタマジャクシ、金魚、文鳥、ジュウシマツ、犬&猫。どれも驚くほどデカクなり、長寿でしたが、生と死を通じていろんなことを教えてくれました。正直なところ、アイガモ農法だったのでお米づくりに熱が入ったのかもしれません。
 田植えとほぼ同時期に生まれたヒナたちは、大阪の繁殖業者さんから一匹六百円で陸送されてきました。外敵に襲われて減るのを見越して、三・三反に放すのは四十羽。ペットとしたらすごい数です。
 アイガモは水鳥ですから、生まれたばかりでも水を怖がることはありません。けれどいきなり水田に放すと、まだ自分の力で羽根を乾かせない子は弱り、群れについて行こうと無理した子は疲労困憊し、命を失うこともあります。そこで独り立ちできるまでの十日間ほどを、朝霧のガレージで保育するのですが、これはもう真剣そのもの。

 まず用意するのは、一×一・五メートルほどの木製育雛箱。そこにおぼれぬように工夫した飲料用の水盆、細長い餌台、温度調節のための裸電球、温度計を置きます。猫などの外敵に襲われないように網でふたをし、さらに毛布で夜間の気温調整をします。床に敷き詰めた段ボールと新聞紙を取り替えるのは、一日最低三回というエンドレスの作業なれど、とっても気持ちよさそうなので私もにっこり。
 本来アイガモは夜行性ですが、ヒナは夕方過ぎから寝に入り、早朝からひよひよと大合唱が始まります。給仕が終わってしばらくしたら、外に設置した別の木箱の運動場で泳ぎのレッスン。すぐにプールに飛び込んで、何事もなかったように羽根を乾かしている子がいると思えば、何回やってもぬれねずみの子もいて、お母さん(ワタシ)は目が離せません。そして木箱の回りをうろつく蛇やトンビを見つけては、「ピピちゃんに近寄らないで!」と威嚇。とにかく四六時中のぞきに行ってしまい、仕事になりません。ちょっぴり遅い擦り込み現象ですが、箱から移動させる時に一羽づつ「チュッ♪」とほおずりしていたので、かなりなついてくれました。捕まえてきたミミズや幼虫を喜んで食べるのを見ていると、なんだか口に挟んであげたくなります。

 実は初めてヒナがやってきた夜、ちょっとしたすきに1羽のカモが仲間に押しつぶされて死にました。十羽ずつに分けて寝床に入れる直前のこと。たぶん寒くて四十羽が団子状態になってしまい、下にいた弱い子が犠牲になったのでしょう。ああ、ごめんなしゃい。その時私は決心をしました。「もう一羽たりとも殺さないぞーっ」。そしてこの二年間、実際に一羽もやられていないのは念の力? いえ、田んぼを覆う網のようなテグスの力です!

かわいいアイガモたちの日光浴と水浴びを見守る”育ての親”山村さん=平成14年6月、静岡県富士宮市の自宅庭

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