vol.63 2004年 11月19日  『ゆったり暮らせば』 第35回

産経新聞 平成15年(2003年)12月4日 木曜日 12版 18頁
ゆったり暮らせば 第35回
〜カモ小屋づくり〜
遊びごころ「あきらめない」


 アイガモのヒナを自宅で保育している間に、田んぼのカモ小屋を制作しました。一年ほどウチで働いてくれたAちゃんは、引っ越しの時にお世話になった酪農家Sさんの長男ですが、農家でしかもプロのオペレーターなので草刈りから重機の操縦まで完璧で、私にとっては”金の卵”。24歳という若さも頼もしく、いろんなことをやってもらいましたが、一番の思い出は一・五メートル四方の小屋の制作でした。カモが少し大きくなるまでは、餌場と寝床を兼ねたこの小屋がベースとなります。大きな段差のある地形を利用して、まずは足場パイプで高床式の土台を作りました。「木と網で好きなように作って!」というと、すぐに私が住みたくなるような立派な小屋が出来ました。

 でも・・・。「この扉、勝手に閉まってカモが挟まれちゃうよ」レイコの厳しいチェックが入り、やり直し。できた。「うーん、動きが鈍い。閉めてる間に逃げちゃうよ。上下の扉にしよう」。再びやり直し。できた。「床さぁ、毎日洗うんだから、隅っこに排水の穴開けなきゃ。あ、ここ、足が挟まっちゃう。」Aちゃんの顔が、次第に引きつります。小屋の回りに配したスロープや階段も難ありでした。どう考えてもカモが挟まったり、刺さったりしそうなものが飛び出ているのです。「ヒナや母親の気持ちになって考えてね」という言葉を幾度も言いました。

 モノ作りって、本当に面白い。小さな小屋なのですが、全身全霊で取りかからねば、よいものは生まれてきません。「それは無理」「できません」という言葉を聞くと、とにかく私は怒り爆発します。「何ですとー? 真剣に考えたら絶対にできるよ! やらないうちから無理なんて、言っちゃ駄目」。パリダカで一番学んだのが、「遊びごころで可能性の海を泳ぐ」ということでした。辛いだけやただの義務感では、いいものは生まれません。そして「絶対に大丈夫!」と思わなくては、何ひとつ形にならないのです。駄目だと思った瞬間に、それは”不可能の海”と化しますが、それを創るのは自分のココロ・・・。「あきらめない&できた」という感覚を知ってほしくて、どうも私は厳しくなるようです。

 幾度かの手直しの後、立派なカモ小屋ができました。「ほら、できたでしょ」とは言いませんでしたが、Aちゃんは満足げでした。ただヒナの動きはそれ以上で、「あと一分見つけるのが遅かったら死んでいた」という事態に数度ほど遭遇しました。わずかなすき間に挟まって身動きがとれなくなるというものでしたが、なぜ親鳥が一瞬たりともヒナと離れないのか納得。やっぱり親って半端じゃないなあ! というわけで、この田んぼに関わる仲間は、み〜んな日々学びなのでした。

ヒナが初めてやってきた日、あまりのうれしさにカモ小屋に入ってしまった山村さん=平成14年6月、静岡県富士宮市下条

 
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