vol.61 2004年 11月1日  『ゆったり暮らせば』 第33回

産経新聞 平成15年(2003年)11月20日 木曜日 12版 18頁
ゆったり暮らせば 第33回
〜アイガモ農法〜
稲も鳥も見守られてすくすく


 ほとんどが素人の「田植え会」。未体験でも土に触ればなんとなく「おっ、これか?」とコツが分かってきます。師匠の教えの下、みんな昼前には植え方を把握し、「さらに効率よく、そして見栄えよく植えるには?」と燃え始めます。私が感じてほしいのは「土と水の力とそれを肌で感じることの幸せ」ですが、「気持ちいい!」「また作業呼んでね」・・・ケガと弁当自分持ちにもかかわらず、帰るころにはその笑顔から、確かな手応えが感じられます。あー、援農ってヨイなあ〜。

 さて、午後三時には田植え作業も終わりますが、レイコ田んぼは「アイガモ農法」なので、更に三・三反の網張り作業が加わります(これがけっこう大変)。アヒル農法は豊臣秀吉時代からあったものの、アイガモの歴史はまだ日本では浅いようです。けれどかなりの勢いで広がっているのは、なにしろ”いいことづくし”だからでしょう。アイガモを田んぼに放すと、虫や雑草を食べてくれるので、農薬いらず。糞(ふん)は栄養となるので、化学肥料いらず。あのかわいい水掻きで泳ぎ廻ることで、土は耕され、濁った水は雑草の繁殖を見事に抑えてくれます(ただしヒエ以外)。そして触れて刺激するので、稲の成長が促されます。

 でも、なんといってもスバラシイのは、道行く人が「かわいい♪」と言ってのぞいてくれることです。「カモが見たくて朝の散歩道変えちゃったわ」「おれが通ると寄ってくるさー」。愛されたカモは呼ばずとも寄ってくる温厚な性格となり、まるでミニ動物園のよう。でも眺められてうれしいのは、カモだけではありません。稲たちもなんだか元気になるのです。動植物にとって愛情がどんなに大切な栄養なのか、よく分かります。カモに逢いたくて足を運ぶ→さまざまな異常の早期発見→早めの対策→環境整ってすくすく、ということに繋がっているのでしょう。

 さてアイガモは、マガモやカルガモにアヒルを掛け合わせたものなので、成長しても低空飛行しかできません。外敵には弱いので、網は必須です。周囲に棒を設置し、そこに高さ1メートル強の網をぐるぐると張り巡らします。下部は土の中に埋め、イタチや犬などの外敵から守ります。電気柵が効果抜群らしいのですが、子供たちが遊びにくることを考えると、これは却下。上空はテグスなどのひもを2メートル間隔で張り、カラスやトンビなどの侵入者を防ぎます。ところが、アイガモへの愛情が強すぎた私は、「まだすき間がある。私がカラスならここから狙うなあ」と張っているうちに、ほとんど網と同じ状態になってしまいました。

 そして二年目には本物の網を張ってしまったのですから、たぶん・・・日本で一番厳重なアイガモ田んぼ、カモ?

アイガモへの愛情がエスカレートし、前年のテグスでは足らずに、大人数でもっと強固な網を張ってしまった=平成14年、静岡県富士宮市下条

 
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