vol.67 2004年 12月12日  『ゆったり暮らせば』 第39回

産経新聞 平成16年(2004年)1月8日 木曜日 12版 18頁
ゆったり暮らせば 第39回
〜ヒエ取り作業〜
みんなとの出会いありがとうね!


 大勢の援農仲間とともに行う田植えと稲刈りは、たった1日程度の作業です。けれどいくらやっても終わらないヒエ取りは、地道で辛ーい労働ゆえ、手伝いを頼むにも勇気が要ります。「貴方も根性つけてみませんか?」「無我の境地になれますよー」。無理強いはできません。けれど実は私、このヒエ取りが何より好きなのでした!

 田植え後、すぐに彼らはやってきます。最初はひょろりと頼りなげなのですが、すぐに稲たちを追い越し、稲そっくりなその風貌ですくすくと育っていきます。取り逃したら最後、稲と同じ場所でじわじわ彼らを制し、気がついたら十対一なんて感じで育ってしまいます。あっぱれの生命力。次々と地面から生えてくるので、古代からの種を発芽させているとしか思えません。「これが食べられたらなあ」と幾度思ったことか。

 ヒエ取りは、稲作を始めたときからの日課でした。稲は節に短い毛が生えており、素人でもすぐに見分けがつきます。いろんな角度から見るとさらに発見できるので、進みながら振り返ったり左右をきょろきょろしたりと、神経を使いながら進みます。粘る土に足を取られたまま手を伸ばすので、ストレッチ運動にもなりますが、速く動くと腰にくるので、太極拳のようにゆったりとやるのが一番。そうこうしていると、このエンドレス作業の中に”禅の世界”のようなものが見えてきます(ホント!)。取り終えればすっきり爽快で、辛さも忘れて「もっとやらせて」状態になる者が出没。リピーターとなってしまうのがこの作業の特徴です。シメシメ。

 それにしても、なぜヒエは邪魔者扱いされるのでしょう。「この世には無駄なものなどなく、みんな意味があって存在している」が持論なのに、これだけ毛嫌いされると、なんだかかわいそう。と思っていたら、ある時、京都から手伝いにやって来てくれた女性ライダーのMちゃんが、久しぶりに会った女友達と並んで作業をしながら、しみじみと言いました。「ヒエがいてくれるおかげでこうしてみんなに会えるんやねー。ヒエちゃん、縁つくってくれてありがとーねえー♪」そう、確かにヒエがなければこの出会いもありません。なんだか急にヒエがかわいく思えてくるのでした。

 リズム、法則、みんな自分流のやり方があり、それを崩さなくていいのがヒエ取り作業です。歌を唱おうと(私だ)、おしゃべりしようと、語らずに自分の世界に浸かろうと、一向に構いません。そこはまさに自由の大地! さて私の場合、なぜかヒエに向かうと、直面していた幾つかの問題が必ず解けます。答えは自然の中に転がっている・・・? 「ヒエ取り道」は、究極の自分探しかも!

「隠れていたって駄目よー」。カモ網の下で大好きなヒエ探しに没頭する山村さん=平成14年6月、静岡県富士宮市下条

 
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