vol.54 2004年 6月 18日  『ゆったり暮らせば』 第26回

産経新聞 平成15年(2003年)10月2日 木曜日 12版 8頁
ゆったり暮らせば 第26回
〜お米作り〜
仲間とやる作業の楽しいこと!


 最近旅をしていると、日本でもよその国でも、水田が気になってしかたありません。どれくらい育っているのか、どんなやり方をしているのかときょろきょろ。ああ、こんな体質になってしまうなんて。

 お米作りを始めて五年になります。きっかけは平成十(一九九八)年、リポーターを務めたテレビ番組の取材先が「棚田オーナー制度」を施行している三重県の紀和町だったことです。人手不足で荒れた棚田を見事に復活させた紀和町には、人の知恵と勇気が充満していました。畑仕事にはまって「あとはお米を作れれば生きていけるぞっ」と思っていたころなので、すぐにオーナー制度に加入しました。でも田植えや稲刈りなどの作業はことごとく行けず、おいしい野菜とお米が送られてくるものの、オーナー二年目には、心がちくちく。

「山村さん、共同でアイガモの田んぼやる?」。お米お米と言い続けて二年たった頃、郵便配達でわが家にやってくるYさんが声を掛けてくれました。事情があって管理できなくなった二反ほどの田んぼを、仲間で借りるというのです。指導は、米農家でもあるYさんを始め、養鶏家、製茶業、自然食品販売、脱サラ、議員と職種はさまざまなれど、みんなオーガニックを実践している「富士山麓アイガモ農法の会」の面々。生徒は、まったくの田んぼ素人約十人。虫や草を食べてくれるアイガモ農法も、こだわり派指導者ばかりと言うのも面白そうなので、すぐに「やる!」と手をあげました。

 今思えば水調整やカモの餌やりなどの日常管理はすべてYさんがやってくれたので、「やってる」というより「触れた」くらいなのですが、本人は楽しくてなりません。田植えで初めて水田に入った日、何をやっても心が躍ります。手植えは、泥の感覚と水の冷たさが相成って震えがくるほど感動的でした。「田植機乗ってみる?」と師匠に言われ、これも初チャレンジ。機械に付いたマーカーを植えた苗に合わせて、ゆっくりと進みます。一応ラリースト、「機械は任せてちょ」と吹聴していましたが、予想以上にまっすぐ植わってにっこり。

 簡単なことはひとつもなく、すべて経験と勘が必要な奥深い世界でしたが、この日初めて顔を合わせた会の面々も、みんないい顔をしています。仲間でやることがこんなに楽しいとは。持ち寄ったお昼ご飯も、どれもがおいしく輝いていました。師匠の奥さんが作ってくれた黒米のおにぎり、漬物、煮物、おはぎ、みんなうますぎる〜っ! 心地よい肉体の疲労に、お腹と心が満たされると、「これ以上の幸せってないんじゃない?」という気がしてきました。私を「田んぼワールド」に連れていったのは、その日の充実感なのでした。

共同のアイガモ農法たんぼで、師匠のYさんに田植機の指南を受ける山村さん=平成12年春

 
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