vol.40 2003年 11月 9日  『ゆったり暮らせば』 第12回

産経新聞 平成15年(2003年)6月19日 木曜日 12版 18頁
ゆったり暮らせば 第12回
〜3週間の引っ越し改築〜
”パリダカ出場並み”のお金が・・・


 平成七(一九九五)年九月初旬に始まった引っ越し改築は、母屋のフローリング化、屋根の張り替え、壁のペンキ塗り、ガレージのシャッター交換、そしてトレーラーハウス設置などをへて、およそ三週間で終了しました。
 最初の五日間でなんとか形にはなったのですが、浄化槽を設置したり、トレーラーハウスの簡易便器をびしっとした陶器の洗浄機能付トイレに換えたりで、時間がかかってしまったのです。キャンプ場ならいいけれど、日常生活となると足踏み式のポリ素材便器は寂しいっ。そうしてトイレが設置できるまでは、近くの山で雉撃ち(野外トイレのこと)でした。これは砂漠や山で慣れたものなので、問題なし。
 ちなみにお尻にシャワーが浴びられる?トイレのある洗面所には、本物のシャワーが付いています。けれど湯量が確保されるボイラーを設置しなかったので、元夫と泥だらけになった愛犬と私が入ると、使えるお湯はお一人様、たったの洗面器三杯。これってパリ・ダカールラリーのキャンプより少ない! これで長髪を洗う技術は身に付きましたが、風呂好きの私にはちょっぴりきつく、以後、近くの温泉に行ったり、人の家でお湯をいただくのが趣味となりました。
 そして実は、ここは新聞配達区域外。つまり新聞さえ届かない場所なのです。だからこそ、壊れていた配管工事が終わって初めて水が通った時や、郵便屋さんがバイクで配達に来てくれたときには思わず写真を撮ってしまうほど感動しました。今まで何気なくそこにあったものたちが、本当はすごくありがたいことに気づきます。近所の人が、門の脇に取れたての野菜を置いてくれます。牧草地を重機で行くご近所さんが手を振ってくれます。都会モンにはそれが新鮮でなりません。東京のマンションでまともに話したことがあるのはたった一人だけだった私も、幼かった頃には確かにあった”地域で生きる”あの感じが蘇ってきて、なんだかワクワク。
 さて、酪農家のSさんという保証人がいてくれたものの、以前ここに住んでいたのは酪農関係者のみということで、持ち主の富士開拓農協が貸してくれたのは、かなり異例のことでした。約千坪の敷地の家賃は、月三万円。それを聞いた人はみな「安い! 信じられない!」と絶句します。以前東京で借りていた駐車場より安いのですから私も驚きました。けれど、いつも私は言います。「一概に安いと思わないでね」。
 千坪の原野を管理することの大変さは、想像の範疇を軽く越えました。草刈りに要する時間は半端ではないし、私道の雪かきも自分たちです。最初に買ったのは、草刈り用の機械と、雪や土を押せるショベルカーでした。仕事で週二回は通う東京までの交通費も、月十万円ほど掛かります。やはり大切なのは、お金ではなく、そこが好きかどうかということに尽きるでしょう。
 結局、新車のトレーラーハウスとさまざまな改築費用で、かかったお金は約六百万円。バイクでパリダカに一回出場できるうぅ〜。

開拓者の精神で自宅の改修を行い、初めて水が通って大感激の山村さん=平成7年9月、静岡県富士宮市根原  

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