vol.30 2003年 5月28日  『ゆったり暮らせば』 第2回

産経新聞 平成15年(2003年)4月10日 木曜日 12版 18頁
『ゆったり暮らせば』 第1回 〜問題は家探し〜 
100以上の物件訪ねた挙げ句・・・

「買い物や仕事、不便でしょ?」「田舎に住みたいけど、どうすれば見つかるの?」いろんな人に聞かれます。たぶん一番気になることなのでしょう。東京まで車で1時間半(百二十`)、スーパーマーケットまで三十分(二十五`)という距離は、まとめ買いするほどでもなく不便は感じられません。むしろ便利そうで遅々として進まなかったあの渋滞に比べれば、ストレスのない生活です。市内までの信号の数は、たった四つ、東京の高速を降りるまでとて十もないのです。
 ファクスやパソコンのある時代ゆえ、連絡ごとや原稿の仕事に関しても、問題はありませんでした。ワープロ党で、自分でパソコンに触ったのは1年半前という化石人間なのに、です。「都会を離れると仕事が減る」と思う人もいるようですが、なぜか変化はありませんでした。
 家探しの答えは「あなたの思いの強さのままに」でしょうか。日本一周や砂漠のラリーについても問われることがありますが、それも同じ。タイミングはありますが、その時どれだけ重きがあるかでカタチは決まるようです。
 「どうすれば家見つかるの?」は、かつて私が幾度も知人たちに掛けていた言葉です。山を借りて手作りログハウスに住む友人宅にお邪魔しては、ドラム缶の露天風呂に入って星を眺めて「こんな暮らしがいいなあ」。軽井沢で暮らす作家の本を読んでは「それもいいなあ」。そんな風にどれもあこがれだったころと自分が探し始めてからの真剣度には、雲泥の差がありました。”したい”と”今、死ぬ気で探している”はまったくの別物だったのです。
 すぐにいい物件が見つかると信じていた私は、まず田舎暮らしが得意な不動産関係から情報を仕入れました。候補地は東京から半径二時間以内の自然に囲まれた処とかなり大雑把ですが、八ヶ岳、長野、軽井沢、那須、房総、北海道・・・新幹線や飛行機利用を考えると、かなり広範囲になりました。
「実家どこだっけ?空き家ないかな」と、友人や仕事関係者にも声を掛けまくりました。電話とファクスがフル回転して情報が集まり始めます。が、課題多し。持ち家願望皆無なので十万円以内の賃貸であること、モトクロッサーなど競技専用中心のバイク数台と車二台を所有していたので、自然環境に恵まれ、かつエンジン音が近所迷惑にならないところという希望を聞いた専門家が、鼻で笑います。「そんな物件、一生探してもありませんよ」。
 そう、おっしゃるとおり。結局、二ヶ月以内の移住計画は遅延しまくり半年を経過。目を通した情報の数は千、尋ねた物件は百を越えました。そして五万円のハイウェーカードがひらひら飛んでいく中で、次第に私はあることに気がつき始めました。

「自然に逆らわずに共生する暮らしが楽しい」と話す山村さん(後方は自宅内にある築50年の牛舎)。  
 


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