vol.25 2002年 11月22日  「とんでもない買い物」

 テーマが面白いからでしょう、37名の様々なひとが書いたこの連載エッセイコラム「とんでもない買い物」は、後に一冊の単行本になりました(1996年)。私が自分でウケてしまったのは、この頃の文章の書き方です。今私はほとんど「です」「ます」調を使っているので、なんだか他人の文みたいで、こそばゆくなってしまうのですよね。でも書いてある内容はまさしく私そのもの。今も旅に出ると、雑貨と市場は必ず歩きまくって堪能します。そして、すっかり変わったところもありました。ベジタリアンになってしまったし(焼き肉ツアーに行けな〜い)、歯磨きチューブは超自然モノしか使わないし(そう、防腐剤や合成香料などがまったく駄目なの。天然素材オンリーなので、楽しそうなブランド化粧品も買えな〜い)、民族衣装が買いたくなっても思い留まる術を覚えたのです。それが成長というのか、ただの変化なのかは分かりませんが、なんだか楽しいです。それにしても、私がフリーマーケットをするのは、実は「買い物好き」だから・・・それが分かるエッセイですよね。

『とんでもない買い物』  1994年(株)カタログハウス発行 「通販生活・暮らしの買物研究号」誌

 ブランドものよりも、その土地とちの雑貨に興味がある私は、ほとんど『とんでもない買い物』ばかりしている。秋田の角館に取材に行った時のお土産は、竹製のベンチと大きな釜だった。釜は、キャンプで使うつもりで購入したのだが、これが安いうえに大変使いやすく、以来、雑貨は地方でと決めている。
 初めての海外は、二十二歳の時。定番のハワイだが、買い物は雑貨づくし。当時、まだ日本に入っていなかった赤、白、青、緑がニュッと出てくる歯磨きチューブは、免税店のグッズよりも魅力的で、お土産としてどっさり買い込んだ。素材のしっかりとしたアルミホイルやごわごわしたノート類も物珍しかった。そしてその頃から、スーパーマーケットや市場に入り浸るのが、私の旅の仕方となった。
 何より、住む人々の生活が解る。人々と生の交流が出来る。それは日本でも外国でも全く同じである。どんな鍋でどんな料理をしてどんな食器で口にするのか。何を身にまとい、どんな歌を唄い、どんな情報を得て、どんな井戸端会議をしているのか。雑貨は、生活を知る一番の導入口なのである。
 アメリカは西海岸ツーリングをした時の買い物は、ネコ用の室内トイレだった。防臭効果の高いそれは、色、質、価格ともに日本製をはるかに上回り、今でもいい買い物だったと笑みがこぼれる。梱包の都合上、機内持ち込みだったので、アタマにかぶって成田の税関を出て来た時は、ちょっと恥ずかしかったけれど、これはお勧めだ。単なる旅行ではなく、激しい戦いを繰り広げる『パリダカール』などの海外ラリーにおいても、つい手に入れてしまうのもがある。民族衣装と飾りとナイフである。ニジェール、インドネシア、タイ、ボリビア、中国などなど。ターバンは何本も揃っている。買う時は日本だってパーティーなら着れるわと思うのだが、残念ながら、いまだにそのチャンスは訪れない。

 とまれ雑貨が楽しいのは、何といってもアジアの国々だと思う。中国の箸やホーロー洗面器、原稿用紙に運動靴。日本で見かける物たちなのに、どこかが違う。タイでは、魔法使いのおばあさんが使うような、ホウキに心を奪われた。柔らかい穂先がくるりんと丸まり、私を誘う。一番大きなホウキを買ったのに、空港までの送迎バスから荷物を出すときに忘れられてしまい、そのままの別れとなった。たぶん係のタイの人は、バスの備え付け掃除用具だと思ったに違いない。
 最近の旅行は韓国だった。大韓航空を利用することの多い私だが、トランジット以外での訪問は初めてだった。実はうんとこさ安い航空券にひかれたのもあるのだが、美味しい韓料理や骨つきカルビをたんと食べた後で、アカすりをやってもらうという友人の誘いにグラリときたのだ。東京で腹一杯食べるのと、韓国二泊三日が同じとあっては、誰もが飛んで行くであろう。果たしてその旅は、出会う人々の親切もあって、想像以上の楽しいものだった。今年の夏は、夫と二人でツーリングしちゃおう!と興奮するほどだった。
 女性雑誌に載ってないような町のお風呂屋さんを探し、擦ってもらったアカはこれまた想像以上に出て、気持ちよかった。お土産は、もちろんプロも使っていた『アカすり手袋』。市場で値切りの交渉の末、手に入れた数十枚のそれは、ほとんどがお土産として女友達の元へと渡っていった。日本には、まだ入ってないし、一枚百円弱で喜ばれるなんて、なかなかあるもんじゃない。金浦空港には、五倍ほどの値段で観光客向けに『アカすりセット』が売られており、うっきっきと気分がよい。
 が、先日、我が家近くの駅前の安売りドラッグストアで、山になっている『アカすり』を発見。なんと九十八円也の値段がついていた。時間の問題だとは思っていたけれど、とショックに陥るも、きっとまた私は何処かへ出掛けたら雑貨屋へと向かうのである。買い物に必要なのは、執着とインスピレーションなのだ。



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