vol.19 2002年 1月 29日  ついに撮った!念願のパリ・ダカールラリー

1999年に行ったパリダカは、私にとっては直感で決めたラリーでした。いつもそうやって機が熟するのを待つのですが、朝の散歩の途中にふと「行こう」と思ったのです。いつも夫と共に居て、夫に頼り切っていた私は、ひとりで冒険することはしばらくありませんでした。独りだけ何か大きいことをやるのは気がひけるという、よくいえば「古風」、悪く言えば「ええかっこしい」が、いつもいたのです。しかしいずれは彼と離れることを感じていた私は、そのころ散歩の中で自分の心と向き合うことが多くなりました。内なる子供が「楽しいことやってごらんよ」と呼びかけます。自分の夢だけにお金を使い、自分の判断で行動した私は、やっと自立のきっかけを掴んだのかもしれません。たった10数日間ですが、一緒に走ったフランス人2人はもちろんのこと、選手、プレス仲間、アフリカの人と大地・・・ほんとうに大きなことを学びました。

エッセイスター第18弾 「VISAアミティエ」2000年1月号・住友VISAカード
アミティエ・フォト・レター「心に残るあの日、あのとき」

 ここ10年、「年明けはアフリカの砂漠で」が恒例になっている。幼い頃から憧れていた広大な大地の姿は、予想を遥かに上回る凄さで迫ってくる。道なき道を行く『パリ・ダカールラリー』という世界で一番苛酷な耐久競技からの眺めなので、それはほんの限られた一部分なのかもしれないが、それでも一生に一度といった息を呑む光景に幾度も出遇っている。
 1991年のパリダカールでは、リビアの砂漠で、地球上の全ての色を見ることができた。地の果てを思わせる岩と砂が織り成す大地をバイクで駆っていると、次第に路面の色が変わってきたのだ。白、黄、緑、青、紫、黒、ピンク、赤、橙・・・バフバフの砂は、まるでお菓子の粉のように不思議な色で、目まぐるしく変わっていった。これは夢か幻か、いったい自分のいるところは何処の星なのか。立ち止まってシャッターでも切りたいところだが、1分1秒を競うラリーではそれもままならない。仕方なく心のシャッターを押しまくったのだった。
 そんな光景は、20日近い競技中に、百も二百もやってくる。いつも「あ〜っ、もったいない!」と叫びながら走っているのが現実だった。そして1999年の一月、念願の「撮りまくっていい時」がやってきた。雑誌の仕事でプレス(報道陣)として四輪のナビゲーター席に乗り、パリダカールを追うことになったのだ。ドライバーは96回もラリープレスとして参加しているフランス人。自らハンドルを握るベテランのカメラマンとあって、走り、撮る場所の決め方、精神の持ち方と、全ての面において、参考になることばかりだった。
 選手で出る時は、小さなオアシスで足を止めることは殆どない。世界で一番美しいと思うモーリタニアの砂丘でも、トラブルがない限りカメラに収めることはない。が、今回は一日中シャッターを切ってよいのだ。私は燃えた。278台、424人の選手が走るのは、モロッコ、モーリタニア、マリ、ニジェール、ブルキナ・ファソ、セネガルの6カ国。通過する村やオアシスでは、選手は勿論、そこに生きる人々や動植物たちにも焦点を合わせた。吸い込まれそうな瞳で笑う幼い子供、楽しそうに語らう女達、教科書を大切に抱えてラリーを眺める青年、語りかけてくる大木のバオバブ、トゲトゲの草木、砂漠の小動物の穴、ストンサークル、道端にあふれるヤギや鶏、オールドローズ色に輝く砂丘群、ロバの糞、ラクダの死骸etc・・・どれもが「だからアフリカが大好きなんだよ〜!」と思うような最高の被写体であり、瞬間だった。ニコンのF90Xに24−70oのレンズのみというシンプルな装備だが、手軽さだけでなく、激しい振動と砂地獄に耐えるという面でも最適な選択だった。
 18日間、9千キロの行程は、この上もなく楽しいものだった。毎日3、4時間しか睡眠時間がないとか、まともにご飯にありつけないとか、いろいろ大変なことはあるものの、出会った物や人の素晴らしさに比べたら、大した問題ではない。ラリーを受け入れてくれるアフリカの視点からみたパリダカは、単なる通過者であったり、夢の具象(宇宙船)であったり様々だが、その選手たちは、まさに砂漠を舞台に自分の人生を創造している瞬間だということを感じることができた。その姿は砂漠と同じように輝き、本当に美しかったのである。私もまた出たい・・・と思ったのは言うまでもない。

 

モーリタニアの砂漠のオアシスで。お祭りではなく普段の日だというのに、なんと美しい衣装だこと。 砂丘地帯を走る日本人の博田選手。プレスは前日の真夜中に走ってこの場所に着き、ビバークして一行を待つ。
砂漠を行くラリーの選手を応援する地元の人達。そのそばには大切にされているのが伝わってくる教科書の固まりが。 集落には必ずロバと山羊と鶏がいる。養鶏といっても、完全な放し飼いで、親子も一緒。餌は砂に埋もれた残飯など。
マリ共和国のある村で、猿と犬を発見。アフリカの犬はとっても人間と仲良しで自由です。
   

 



Copyright 2001 Fairy Tale, Inc. All rights reserved.